エビデンス(evidence)とは「証拠、根拠、証言、形跡」という意味です。
医療現場ではエビデンスを「医学的な根拠」と訳されています。がん治療では、このエビデンスという言葉は重要な意味を持っています。
例えば、胃がん治療における胃の摘出手術は、治療効果が期待できる証拠と根拠があるので、エビデンスのある治療といえます。そして胃の摘出手術は、医師たちで構成する学会だけでなく厚生労働省もエビデンスがある治療と認めています。

そしていま、がん治療に携わる医師やがん患者さんなどが、コロイドヨードに注目しています。しかしコロイドヨードはまだ、公的医療保険の対象になっていません。
では、コロイドヨードには「どの程度のエビデンス」があるのでしょうか。詳しくみていきましょう。

医療におけるエビデンスの重要性

医療におけるエビデンスの重要性について、もう少し掘り下げて考えてみます。
「エビデンスがあるがん治療」といえば、大学などが研究を重ねて開発し、厚生労働省やがん治療関連の学会などがその効果を認めたがん治療のことです。
そして、そのがん治療を開発した大学や、効果を認定した厚生労働省や、がん治療関連学会は、「なぜその治療を行うと、がんが治ることを期待できるといえるのか」を説明できます。
つまり「エビデンスがある」と主張するためには、しっかり説明できる必要があります。

エビデンスの重要性を理解するには、エビデンスのない「治療のようなもの」を考えてみる必要があります。
例えば、ある業者が「この特殊なオレンジを食べるとがんが治る」といって、特殊なオレンジを販売したとします。しかしそのような業者に「なぜそのオレンジを食べるとがんが治るのか」と尋ねてもまともな説明はできないでしょう。せいぜい「実際にこのオレンジを食べてがんを治した人がいる」というくらいです。
しかしそれでは説明になっていません。そのため、そのようなエビデンスがないことには取り組まないほうがよいのです。

「しっかりした説明」とは、がんとはどのような病気で、どのような状況になったときにがんが発生し、その治療はがんの発生と消滅にどのように関与するのか、を説明することです。
例えば、胃がん治療における胃の摘出手術は、次のように「しっかりと説明」できます。

  • がんとは、通常細胞が変異によって、がん細胞になった状態をいう
  • 胃がんとは、がん細胞が胃に発生した状態のことである
  • がんが治るとは、がん細胞がなくなることである
  • したがって、胃を摘出すれば体内からがん細胞が取り除かれるので、がんでなくなる
  • 胃は摘出しても命に関わることはない

このように説明できると、胃がんが発生し、その後がん細胞が肺や肝臓などに転移してしまえば、胃の摘出手術だけではがんを治療できないことがわかります。
また、胃は全部を摘出しても命に関わることはありませんが、肝臓をすべて取り除いたら人は生きることができません。したがって、肝臓がんの場合、手術でがん細胞を切除する範囲が限られています。

このように、治療にエビデンスがあると、「できることとできないこと」や「治癒が期待できるケースと期待できない場合」がわかります。
どれだけ科学が発展しても、医学や医療や治療には限界があります。エビデンスは有効性だけでなく、その限界も示しているのです。

コロイドヨードはヨードでつくる

次に、

  • そもそもコロイドヨードとはなんなのか
  • コロイドヨードはなにからつくられるのか

について解説します。

コロイドヨードはコロイドとヨードにわかれます。成分に関するものはヨードです。コロイドとは物質の状態のことです。

ヨードは昆布に含まれ甲状腺ホルモンの材料

ヨードはヨウ素と呼ばれることもあります。
ヨードは昆布やワカメなどに含まれているミネラルで、人の健康に欠かすことができない物質です。
ヨードは、甲状腺という首の前部にある20グラムぐらいの小さな臓器に深く関わっています。甲状腺は、甲状腺ホルモンという体調を整える物質をつくっていて、ヨードは甲状腺ホルモンの材料になります。

甲状腺ホルモンが不足すると、低血圧や疲れ(倦怠感)を引き起こし、さらに甲状腺腫や甲状腺機能低下症という病気に進んでしまうこともあります。
また甲状腺ホルモンは新陳代謝を促進するので、子供が甲状腺ホルモン不足に陥ると成長を阻害することもあります。
したがって甲状腺ホルモンが不足しないように、人はヨードを摂取しなければならないのです。
ただヨードの過剰摂取はかえって健康を害してしまいます。この点については後述します。

コロイドとは状態のこと

コロイドとは物質の状態のことです。

コロイドとは、2種類の物質AとBが混ざるときに、物質Aが1~100ナノメートルの小さな粒子になって、物質Bに均一に混ざる状態のことをいいます。
牛乳はコロイド状態です。たんぱく質や脂肪などの物質Aが、水という物質Bに均一に混ざっているからです。
ペンのインクもコロイド状態ですし、化粧品の多くはコロイドです。

さて、ここまでの解説で、コロイドヨードはコロイド状態にあるヨードであることがわかりました。
基礎知識を獲得できたところで、専門的な解説を加えてみたいと思います。

コロイドヨードの専門知識

「高濃度のコロイド状の有機ヨウ素を含有する液体製剤及びその製造方法」という論文によると、コロイドヨードは次のようにして定義されています。

コロイドヨードは、有機ヨウ素と水酸化ナトリウムと、微量の過酸化水素を含有するアルカリイオン水からなり、アルカリイオン水に、水酸化ナトリウムが溶解し、有機ヨウ素がコロイド状に分散した、pHが7〜8の弱アルカリ性であるコロイド溶液である

つまりコロイドヨードは、ヨード(有機ヨウ素)と水酸化ナトリウムと過酸化水素とアルカリイオン水でつくられているわけです。

ここで、「なぜ、医師やがん患者さんは、ヨードをそのまま摂取するのではなく、ヨードをわざわざコロイドヨードにして摂取するのか」という疑問がわくと思います。
それは、ヨードは体になくてはならない成分なのですが、ヨードを多く摂りすぎると甲状腺が甲状腺ホルモンをつくれなくなってしまうからです。これを甲状腺機能低下症といいます。
つまり、治療目的でヨードを多く摂取しすぎると、ヨードによる治療効果を得られたとしても、過剰なヨード摂取による健康被害が発生し、かえって不健康になってしまうのです。

そこでヨードをコロイドヨードにすることで、体内への過剰摂取を阻止しながら、ヨードの効果を高めることを狙ったのです。

明確に推奨されているわけではないが明確に否定されているわけでもない

コロイドヨードを使った治療は、エビデンスのあるがん治療といえるのでしょうか。
まず明確にいえることは、厚生労働省や学会では、がんの3大療法は手術、抗がん剤、放射線と位置付けています。そしてコロイドヨードはそのいずれにも当てはまりません。
したがって、コロイドヨードを治療目的で使用する医師も、がん患者さんにはまず、3大療法を試すようすすめるはずです。

では、コロイドヨードにエビデンスがないのかというと、そうではありません。
コロイドヨードは、がんの代替療法と位置付けられています。

がんは3大療法に取り組んでも完治できないことが多くあります。また、3大療法は限界を迎えます。がん手術でがん細胞に侵された臓器をすべて取り除くことはできませんし、抗がん剤を使いすぎると副作用が大きくなって健康が害されます。放射線も人が浴びられる量は限られています。
したがって、患者さんが依然としてがんと闘っているにも関わらず、病院から「もう3大療法を行うことはできません」と告げられることがあるのです。

では、3大療法をから「見放された」がん患者さんは、どのような治療を受けたらいいのでしょうか。
それが、がんの代替療法です。

国立がん研究センターは、がん代替療法について「有効性や安全性を科学的な方法で評価しようという気運が世界的に高まっている」としています。
国立がん研究センターは、アメリカのハーバード大学が公表した「がんの代替療法の有効性と安全性のまとめ」を紹介しています。
この「まとめ」では、さまざまな種類の、がん代替療法について、

  • 推奨(75%以上の有効性)
  • 条件によっては推奨(50%超の有効性)
  • 容認(有効性は確認できないが安全)
  • 反対(有効性がないか、重大な危険性がある)

で評価しています。

それによると、「乳がんに対する脂肪制限」や「野菜や玄米中心の食事」や「抗がん剤による吐き気や嘔吐に対する針灸」は「容認」としています。
一方、「乳がんに対する大豆サプリメント」などは「反対」の立場を取っています。

コロイドヨードについてですが、このなかでは審査されていません。したがって「推奨」や「条件によっては推奨」といったお墨付きは得ていません。
しかし、このことは「とても重要」です。
それは、「反対」になっていないからです。
アメリカのハーバード大学が反対していないだけではありません。国立がん研究センターは、がん患者さんや一般の方に、がん治療に関する情報を提供していますが、そこでもコロイドヨードの使用を反対したり警告を出したりしているわけではないのです。もちろん厚生労働省も、コロイドヨードについて反対も警告もしていません。

コロイドヨードをがん治療に使っている医師たちの見解

日本のがん治療の現場で、コロイドヨードを使っている医師たちがいます。
もちろんこうした医師たちも、がん患者さんにはまず、手術、抗がん剤、放射線の3大療法をすすめます。
しかし、3大療法ではもう手の施しようがなくなっている末期がんの患者さんに対し、コロイドヨードを提案する医師たちがいるのです。
コロイドヨードを自分のクリニックで使っている医師たちは、コロイドヨードと免疫との関係や、コロイドヨードの副作用の少なさなどに注目しています。

まとめ~医師に相談してみる価値は十分ある

コロイドヨードとエビデンスの関係についてみてきました。
コロイドヨードの使用を検討しているがん患者さんであっても、まずは「より確かなエビデンス」がある3大療法を受けたほうがよいでしょう。
しかし、もし末期がんにまで進行してしまったら、担当の医師にがんの代替療法について相談してみてください。3大療法の担当医が代替療法を否定しなかったら、コロイドヨードを使っている医師に相談してみてはいかがでしょうか。