NHKのクローズアップ現代という番組で紹介されて以来、がん患者さんやその家族たちに注目されているのが、テロメアです。
人の細胞のなかには核があり、核のなかに染色体が入っています。染色体の端(はし)に付いているのがテロメアです。
テロメアが短くなると、がんが発症しやすくなり、短くなったテロメアを伸ばすと、がんを防げるかもしれません。

テロメアはあやしい成分ではない

がん治療関連で聞いたことがないカタカナが出てくると「あやしい」と疑う人もいるでしょう。実際、がんを完全に治すといって「あやしい成分」を売る悪徳業者は存在します。

しかしテロメアについては、安心して自らの知識にすることができます。テロメアについて研究した学者は、ノーベル生理学医学賞を受賞しています。
またNHKだけでなく、日本経済新聞や世界的な科学雑誌ネイチャー、国内最高峰の研究機関である理化学研究所などがテロメアの解説記事を紹介しています。

染色体の基本知識

テロメアは、染色体に関わる物質ですので、まずは染色体について解説します。

人などの生物は、細胞が集まってつくられています。人をばらばらにすると、細胞1個1個に分解できます。
では、1個1個の細胞を組み合わせると人が完成するかというと、そのようなことはありません。なぜなら人はそれぞれ個性があるからです。
AさんにはAさんの細胞があり、B君にはB君の細胞があります。AさんとB君の違いは細胞の違いということもできます。
人の細胞のなかの核のなかにある染色体は「棒状」で、2本で1ペア(対、つい)となっています。23対、計46本の染色体が1つの細胞のなかに入っています。

染色体の種類が違うことを、人の個性と呼ぶわけです。

染色体はコピーされる

精子と卵子の結合が1年近くかかって人になるのは、細胞分裂をすることで細胞を増やしているからです。成人になると背の高さは変わりませんが、細胞分裂は続いています。細胞は簡単に壊れてしまうので、壊れる前に新しい細胞を誕生させて、古い細胞を捨てています。

細胞が増えるとき、染色体がコピーされます。染色体がコピーされているので、細胞が入れ替わっても個性が継続します。
すべての古い細胞が新しい細胞に入れ替わっても、AさんがAさんであり続けることができて、突然Bさんになったりしないのは、細胞のなかの染色体がコピーされているからです。古い細胞も新しい細胞も「同じ」ものです。

完全にはコピーされない

ここで疑問が生じると思います。古い細胞が新しい細胞に置き換わり、古い細胞と新しい細胞が同じなら「なぜ人は死ぬ」のでしょうか。
それは、誕生する新しい細胞が少しずつ劣化していくからです。

コピー機を思い出してください。文字が書かれてあるA4用紙をコピー機でコピーすると、まったく同じものが印刷されます。コピーしたものをコピーしても、また同じものが印刷されます。
しかし1回ごとのコピーで、文字の形は少しずつ崩れていきます。どれだけ高性能のコピー機でもまったく同じにはコピーできません。コピーを繰り返すと、最終的には判読できないくらいまで文字が崩れます。

人の細胞も同じで、コピーしてできあがる新しい細胞が劣化して、生命を維持できなくなります。
ではなぜ、細胞は劣化するのでしょうか。そこにテロメアが関わっています。

テロメアとテロメラーゼ

テロメアの他にもうひとつ、聞いたことがないカタカナ用語を覚えてください。
それはテロメラーゼです。
テロメアとテロメラーゼについて解説します。

帽子が擦り切れて短くなっていく

染色体は棒状です。テロメアはその先端にくっついています。

靴ひもを思い出してください。靴ひもは布でできているので、そのままではスニーカーの細い穴に通すことに苦労します。そこで靴ひもの先端はプラスチックが巻かれ、布を堅い状態に保っています。このプラスチックは布がほどけないようにする保護帽子のようなものです。靴ひもを長期間使っていると、プラスチックの保護帽子が壊れて布が露わになります。そうなると靴ひもがほどけてしまい、最終的には糸くずにまで分解されます。

テロメアは染色体の先端に付いた保護帽子のようなものです。
新しいテロメアは一定の長さがあり、棒状の染色体を保護しています。しかし細胞分裂を繰り返すうちに保護帽子が削られ短くなっていきます。
そしてテロメアがなくなってしまうと細胞分裂できなくなってしまいます。それが細胞の死滅です。

テロメラーゼは修復剤

さまざまな人の染色体を調べたところ、同じ年齢の高齢者でもテロメアが短くなっている場合と長いままの場合があることがわかりました。高齢者でもテロメアが劣化しない人がいたのです。
さらに調べると、テロメアが長いままの人の細胞には、テロメラーゼという酵素があることがわかりました。
さらにテロメラーゼが、テロメアの修復剤の役割を果たしていることがわかりました。
テロメラーゼがあればテロメアが劣化せず、つまり細胞が劣化しないので、理論上は不老不死を実現できます。

がん細胞にはテロメラーゼがあった

がんとテロメアの関係についてみていきます。
がん細胞と正常細胞には次のような性質の違いがあります。

  • 正常細胞:いつか死滅する
  • がん細胞:人が死亡するまで死滅せず増え続ける

がん細胞は異常な行動を起こして臓器を動かなくしますが、がん細胞が正常細胞と同じようにいつか死滅すれば、人を殺すことはありません。しかしがん細胞は増える一方で、減りません。これでは正常細胞が敵うわけがありません。
がんが「不治の病(治らない病気)」といわれているのは、がん細胞が死なないからです。

がん細胞は保護され続ける

正常細胞が死滅するのは、テロメアが劣化して短くなるからでした。染色体が保護されなくなって細胞をコピーできなくなることで死滅します。
しかしがん細胞は、テロメアの補修剤であるテロメラーゼを持っているのです。がん細胞の染色体のテロメアは、テロメラーゼによって保護され続けるので劣化せず、死滅しません。

テロメアの長さは人それぞれ

広島大学系列のベンチャー企業が50代の10人の染色体を調べたところ、テロメアの長さが人によってかなり異なることがわかりました。

35歳相当から83歳相当まで

この企業は、年齢ごとのテロメアの平均的な長さを把握していました。その10人のうち、最も長い人は35歳相当のテロメアを持っていました。最も短い人は83歳相当のテロメアでした。
同じ50代にも関わらず「テロメア年齢」は48歳もの差がありました。

がん患者さんの正常細胞のテロメアが短いことがわかった

東京都健康長寿医療センターが、食道がんの患者さんの「正常細胞」を調べたところ、テロメアが年齢平均より大幅に短くなっていることがわかりました。
このことは、がん細胞とテロメアが深く関わっていることを証明しています。

染色体が傷ついて突然変異を起こす

正常細胞のテロメアが短くなると、保護がなくなり染色体が傷つきやすくなります。
がん細胞は外から体内に入ってくるのではなく、体内の細胞が突然変異を起こしてがん細胞に変わります。染色体が傷ついて不安定になると、突然変異を起こしやすくなってしまいます。
それでテロメアが短い正常細胞を多く持っている人は、がんを発症しやすくなります。
東京都健康長寿医療センターによると、食道がん、口腔がん、膵臓がん、皮膚がんは、テロメアの短さと関係しています。

テロメアとがんの関係性

ここまでのおさらいをしておきましょう。以上の解説を箇条書きでまとめてみます。

  • 染色体が劣化すると細胞は死滅する
  • テロメアが十分長く、染色体を保護していれば死滅しづらい
  • テロメアは酵素テロメラーゼによって修復される
  • がん細胞はテロメラーゼがあるのでテロメアが修復されて死滅しない
  • テロメラーゼが少ない正常細胞はテロメアが劣化して死滅しやすい
  • テロメアが短くなると染色体が傷つき突然変異してがん細胞になる

ストレスを減らせばテロメアを守ることができる

先ほど、テロメアの長さは同じ年齢でも人によって異なる、と紹介しました。ストレスが多い人や酒やたばこをたくさん飲む人は、テロメアが短くなりやすいことがわかっています。
これは従前からいわれていた「ストレスや酒やたばこが、がんに深くかかわっている」ことの説明にもなっています。

テロメアを長くする方法

テロメアの長さを維持するには、酵素テロメラーゼを増やす必要があります。カリフォルニア大は、瞑想やヨガがテロメラーゼを増やすと指摘しています。
カリフォルニア大が被験者グループに「1日30分程度のウォーキング、野菜中心の食事、家族との深い関わり合い」を5年間続けてもらったところ、テロメアが10%伸びました。
さらに、孤独で気分が沈みがちな人は、テロメアが短くなりやすく、3倍以上病気になりやすく、早死にする傾向があることもわかりました。

まとめ~結局は心と運動に行き着く

テロメアの研究が進んだことで、がんを予防するには次のことが必要であることがわかりました。

  • 禁煙
  • 酒量を減らす
  • ストレスのない生活を送る
  • 適度な運動をする
  • 野菜を多く食べる
  • 瞑想やヨガをして心を整える

この6項目だけをみると、これまで繰り返し、健康に必要なことと指摘されてきたものばかりです。テロメアの解明によって、この6項目の効果があらためて証明されました。
規則正しい生活をし、体と心の健康を心がけることが結局のところ一番の予防になりそうですので、意識して取り組んでいきたいですね。