5-ALAとは、アミノレブリン酸と呼ばれるアミノ酸の一種です。かつてから眠りや血糖値に関わりのある成分として知られていましたが、近頃では癌(がん)に対する効果も期待されています。
5-ALAはすでに医療現場でも実際に使われるようになりました。ここでは5-ALAが癌に対して具体的にどのような効果があるのかを詳しくご紹介します。
癌ができる原因
日本人の死因の約3割を占めているのが癌です。年間で40万人近い方が癌で亡くなっています。癌の原因としてはいろいろと考えられていますが、とくに次に挙げる4つは癌と深い関わりがあるものです。
喫煙や飲酒
癌を予防するためには禁煙することが1番だと言われることがあるほど、喫煙は癌の大きな原因として知られています。
癌になった方のうち男性の30%、女性の40%は喫煙が原因なのではと考えられている のです。
たばこには約70種類もの発癌物質が含まれており、これらがDNAに損傷を与えることで細胞を癌化します。咽頭癌や食道癌、肺癌や肝臓癌はとくに喫煙と関係のある癌です。
また、アルコールも癌と大きな関係があります。アルコールそのものと、アルコールの代謝物であるアセトアルデヒドに発癌性があるのです。
食べ物
過剰な食塩は胃癌、加工肉や赤身の肉は大腸癌のリスクを高めることで知られています。
また熱い食べ物や飲み物は食道癌のリスクを高める可能性があるものです。
ほかに野菜や果物の摂取が少ないと癌になりやすいこともわかっています。
体格
痩せすぎや太りすぎは癌のリスクを高める要因です。
男性の場合、BMIが21未満の方とBMI30以上の方は、BMIが21~29の方と比べると癌の発生率が高くなる ことがわかっています。
肥満が健康によくないことは多くの方が知っていますが、実は痩せすぎも体にはよくないのです。
また、高身長の方は甲状腺癌のリスクが高いこともわかっています。
感染症
とくに女性では、感染症が癌の原因となることがあります。
有名なのは子宮頸癌です。
子宮頸がんはヒトパピローマウイルスの感染によりおこります。
感染した方の90%は自然に治癒しますが、残りの10%では感染が持続化し、一部の方で癌化してしまうのです。
ほかにヘリコバクター・ピロリ菌は胃癌、ヘルペスウイルス8型はカポジ肉腫、B型やC型肝炎ウイルスは肝細胞癌の原因となります。
癌の主な治療方法
手術・薬物療法・放射線療法が癌の三大療法です。どれか1つを行うこともあれば、複数の治療を組み合わせて行うことも少なくありません。
手術
癌化している組織を肉眼で判別し、取り除く治療方法です。癌の組織をまるごと切除できるため、うまく手術ができれば癌を完治させることもできます。傷口をできるだけ小さくして患者さんの負担を少なくするために、内視鏡手術や腹腔鏡下手術などを行うことが増えてきました。
薬物療法
抗癌剤を服用することで癌細胞を攻撃し、増殖を抑えます。癌の種類によって有効な治療薬が変わるため、適切なものを選ぶことが大切です。副作用で吐き気や脱毛、倦怠感やほかの臓器への影響などが出やすいことが大きなデメリットです。
また抗癌剤の種類によっては薬価が1か月で数百万円ほどかかるものもあり、治療費の負担が高額になりやすいことも大きなデメリットでしょう。
放射線治療
癌の病巣部に放射線をあて、癌細胞を攻撃します。治療中に痛みを感じることはとくにありませんが、癌細胞と同時に正常な細胞まで影響を及ぼしてしまうことが問題です。癌細胞を死滅させる目的で行われるほか、転移した癌の痛みを緩和する目的でも治療が行われます。
癌の手術の問題点
癌を組織ごと除去できるため、手術はとても効果的な治療方法です。しかし問題点もいくつかあります。
傷や体力の回復に時間がかかる
癌組織を除去するためには、どうしても体にメスを入れなければいけません。そのため術後はどうしても回復に時間がかかってしまうものです。メスを入れる範囲にもよりますが、術後1か月ほどは痛みが完全には引かず、もとの状態に戻るのに3か月ほどかかると言われています。
また手術によって体力も大きく消耗されるため、一度で癌細胞を取り除けなければ患者さんに大きな負担をかけることになるでしょう。
癌組織の周囲にある臓器や神経を傷つける可能性がある
癌組織だけをうまく取り除ければいいのですが、癌の広がり方によっては周辺にある臓器や神経を傷つけてしまう可能性があります。再発を防ぐために、癌ができている範囲よりあえて広めに取り除くことも少なくありません。
癌を取り残すリスクがある
肉眼でも確認できるほどの癌は手術でしっかり取り除くことができます。しかし細胞レベルで点々と存在しているような癌組織を肉眼で見極めるのは至難のわざです。そのため癌組織を取り除いたと思っていても実は除去しきれずに残っている可能性があります。
5-ALAは、癌の予防や再発防止に期待されている
癌の治療方法には手術や薬物療法、放射線治療などがあります。どれもメリットやデメリットがあるため、患者さんとよく相談しながら治療方針を決めていくことが基本です。5-ALAは癌の治療でもとくに手術分野で活躍が期待されています。
鉄キレート剤と併用することで癌細胞の検出ができる
5-ALAを投与すると、代謝されてプロトポルフィリンIX(PPIX)という物質ができます。プロトポルフィリンIXは、癌細胞に集まって蓄積される性質があることが特徴です。さらに青色の光をあてると赤色の光を跳ね返す性質ももちます。そのため5-ALAを投与して青色の光を当てることで、癌細胞がどこに存在しているのかを見つけることができるのです。
さらに近頃の研究では、5-ALAだけでなく鉄キレート剤を同時に使用すると、癌細胞を検出する精度が上がることがわかりました。プロトポルフィリンIXが発生する活性酸素が癌細胞を攻撃することもわかっているため、5-ALAは癌細胞の検出と治療の両方に貢献してくれることが期待されています。
膀胱癌の手術で取り残しを最小限にできる
手術をしても5年以内に50~60%の方が再発するといわれている膀胱癌。多くは経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)という方法が行われていますが、どうしても癌組織の取り残しが生じてしまうことが課題でした。そのため膀胱癌の手術では、いかに取り残しを最小限に抑えられるかが鍵となります。そこで役立つのが5-ALAです。
肉眼では見えないレベルの癌組織でも5-ALAを使えば癌組織が発光して可視化されるため取り残しを最小限に抑えられます。5-ALAを使って膀胱癌の手術をした場合、従来の方法では8年後の再発率が48%であったのに対して、5-ALAを服用してもらったケースでは20%にまで再発率が低下していました。
完全にゼロにすることはまだまだ難しいものですが、癌組織の取り残しを少なくすることで再発を大きく防げるのは間違いありません。
5-ALAは「医薬品」としてすでに認可されている
私たちが日常生活で目にすることのある5-ALAは、ほとんどがサプリメントでしょう。サプリメントはあくまで「不足している栄養素などを補うもの」であり扱いは食品と同じです。
しかし5-ALAは、医療現場で使われる医薬品として承認されているものもあります。医薬品はサプリメントとは違い、効能効果がしっかりと認められていることが大きな特徴です。
アラグリオの効能効果
医薬品として承認されている5-ALAは、「アラグリオ」という名前で使用されています。

5-ALAに青色の光を当てると赤く発光することを利用した光線力学診断用剤です。効能効果としては「経尿道的膀胱腫瘍切除術時における筋層非浸潤性膀胱癌の可視化」が承認されています。簡単にいうと膀胱癌の手術で癌組織を見やすくできるというものです。
ただし、炎症が起きている部位では癌組織がなくても5-ALAによって発光してしまうことがあります。そのため、患者さんの手術部位の状態によってはアラグリオの使用が適さない場合もあるでしょう。
また5-ALAに青色の光をあてると赤く光るはたらきは、光を照射する時間が長いほど次第に弱まってしまいます。長い時間にわたって行う手術には向いていないので、できるだけ短時間で済ませなければいけません。
アラグリオの副作用
膀胱癌の手術でアラグリオを使用した国内の臨床試験では、123例中46例で次のような副作用が報告されました。
- AST(GOT)増加:21例(17.1%)
- ALT(GPT)増加:17例(13.8%)
- LDH増加:12例(9.8%)
- 血中ビリルビン増加:12例(9.8%)
- γ-GTP増加:10 例(8.1%)
- 悪心:9 例(7.3%)
- 嘔吐:8 例(6.5%)
ASTやALT、γ-GTPは肝臓の機能を示すものです。値が増加しているということは、肝細胞がダメージを受けていることを意味します。つまりアラグリオは、肝臓のはたらきに影響が出やすい医薬品だと言うことができるでしょう。
このほかにアラグリオでは、重大な副作用として肝機能障害や低血圧も報告されています。
5-ALAの代謝物であるPPIXを細胞外に排出するメカニズムも明らかになってきている
5-ALAが代謝されることで作られるプロトポルフィリンIX(PPIX)は、癌細胞に取り込まれたのちに少しずつ細胞から排出されてしまいます。排出されると癌細胞を検出しにくくなるため、できるだけプロトポルフィリンIXを細胞内に長くとどめておくことが重要です。
2019年の研究で、細胞に取り込まれたプロトポルフィリンIXがどのような機序で細胞外に排出されているのかがわかりました。癌細胞の細胞膜にあるABCG2やダイナミン2といった物質がプロトポルフィリンIXを細胞外に排出していたのです。
ABCG2やダイナミン2のはたらきを阻害することができれば、プロトポルフィリンIXの排出を抑えることができるようになるでしょう。もしプロトポルフィリンIXの排出をうまく抑えられるようになれば、5-ALAを使った癌の診断や治療がより効果的に、効率よく行われるようになることが期待できます。
まとめ
癌は手術や薬物療法などを使って治療を進めます。手術は癌組織を取り除けるため有効な治療方法の1つとして知られていますが、肉眼では見えない癌細胞については手術で取り除くことはとても困難です。
そこで5-ALAが癌の治療に注目を集めるようになりました。代謝物のプロトポルフィリンIXが癌組織に集まり、さらに青色の光をあてることで赤色に発光することから癌を可視化することができるのです。プロトポルフィリンIXが癌細胞から排出される仕組みも明らかになったため、今後はますます5-ALAが癌の治療領域で活躍していくことでしょう。