日本は代替医療の後進国です。それは公的医療保険制度が充実しているので、最先端の西洋医学が「格安」で受けることができるからです。
多くの日本人の意識の中に、「本物である西洋医学」を受けられるなら、何もわざわざ「代りの代替医療」を受ける必要はない、という思いがあります。
しかし、西洋医学の本場と思われているアメリカでは、代替医療が盛んです。そして、日本と欧米の両方の代替医療の事情を知る医師は、日本でももっと代替医療が取り入れられてよいと考えています。

日本で「44.6%が代替医療」って本当?

金沢大学医学部には、国立大学では珍しい代替医療の研究室があります。研究室の正式名は「臨床研究開発補完代替医療学講座」といい、その鈴木信孝特任教授は、「患者も医師たちも代替医療に対する確かな選択の目を持つべきである」と述べています。
しかし多くの日本人は、代替医療になじみがありません。

ほとんどの人は健康食品とサプリ

厚生労働省と国立がん研究センターが共同で作成した「がんの補完代替医療ガイドブック第3版」によると、2005年段階では44.6%のがん患者が何かしらの代替医療を受けています

この数字には「代替医療を受けている人は意外に多い」という印象を持つのではないでしょうか。
「ある人が通常のがん治療と並行して代替医療を受けている」という話はあまり聞かないのではないでしょうか。

「がん患者が代替医療をやっている」という話はあまり聞かない
しかし調査をすると「がん患者の44.6%が代替医療を受けている」という結果がでた

このギャップは
なぜ生じているのか?

一般の人が「代替医療は国内にほとんど浸透していない」と感じているのに、なぜ調査をすると44.6%ものがん患者が「代替医療を受けている」と答えるのでしょうか。
それは、国内のがん患者が受けている代替医療は、ほとんどが「健康食品・サプリメント」だからです。

国内のがん患者が受けている代替医療の種類は次の通りです。

健康食品・サプリメント 96.2%
気功 3.8%
3.7%
3.6%

※複数回答可

健康食品やサプリであれば、健康な人でも日常的に使っています。ですので、がん患者が治療目的で健康食品とサプリを使っていても「代替医療をやっている」という印象を持てないのでしょう。

アメリカには驚くほど豊富なメニュー

天然由来のもの ハーブ、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品、プロバイオティクス
心身に働きかけるもの 瞑想、ヨガ、鍼灸、深呼吸、催眠療法、イメージ療法、気功、太極拳、インド伝統のアーユルベーダ医療、中国伝統医学
手技や身体を使ったもの 脊椎の整復術マニピュレーション、マッサージ、カイロプラクティック、オステオパシー
その他 ピラティスやロルフィングなどの運動、エネルギー療法、ホメオパシー

ちなみに、コロイドヨードの原料はヨウ素です。ヨウ素は海水や海草やかん水から抽出するので、上記の分類では「天然由来のもの」となるでしょう。

日本の代替医療の現状と比べると、アメリカの代替医療の種類の多さは驚くばかりです。

国に代替医療の専門機関、予算70億円

別の調査によると、アメリカとカナダでは、がん患者の80%がこれらの代替医療を受けているのです。通常の医療費より、代替医療にかける医療費のほうが高い状況です。

アメリカではさらに、国立健康衛生研究所(NIH)という国の機関の中に代替医療を専門に研究するセンター(NCCAM)を開設し、年間約70億円もの予算を投じています。

イギリスではチャールズ皇太子の提案で、代替医療の研究が行われました。
イギリスの7割以上の大学医学部には代替医療の機関があり、医学部生への教育も熱心に行っています。日本の医学部生が大学で代替医療を教わることはまれです。

日本の医学界は、欧米での成功事例を積極的に取り入れる気質があります。しかしなぜ代替医療だけは例外なのでしょうか。
なぜ代替医療は欧米で盛んで、日本ではあまり行われないのでしょうか。

日本は西洋医学への信奉が強すぎる?

浜松医科大学病理学第一講座のシニアアドバイザーで医学博士の遠藤雄三先生は、代替医療が日本に根付かないのは、医師たちが、すべての治療を現代医療(西洋医学のこと)でカバーしようとしてきたことに原因があると述べています。

しかし西洋医学の代名詞のような存在である抗がん剤治療には副作用があり、抗がん剤はがんを攻撃すると同時に、患者に肉体的精神的ダメージを与えています。
また抗生物質は大変威力があり、これまで数えきれないほどの命を救ってきましたが、抗生物質に打ち勝つ細菌が発生すれば、新たな感染症が引き起こされます。

このように、西洋医学には不得意な分野があるのだから、その足りないところは代替医療で補えばいいのではないか、というのが遠藤先生の考え方です。

エビデンス重視が代替医療の妨げになっている?

遠藤先生は自身の論文の中で、次のように述べています。
「代替医療の有効性が100%分からなくても、現在の医療が非常に大きな副作用があることが分かっている場合には、それはやはり避けて、エビデンスは少ないけれども代替医療を選択する道もあるのではないかということです。
そういうことを医者は、患者さんに説明して、選んでいただくという義務があると思うわけです。」

エビデンスは医療の進歩に欠かせない考え方ですが、そのエビデンスが日本の代替医療の拡大を妨げているようです。

エビデンスがない代替医療は弱い?

エビデンスとは「証拠」という意味で、医師がとても大切にする項目です。医師は「この治療法はエビデンスが豊富だから治療効果が推測できる」と考えます。

では、一般の人や患者にとっては、エビデンスにはどのような意味があるでしょうか。
患者が医師から「この治療法はエビデンスが豊富だから治療効果が推測できる」と言われたら、その患者は医師が「この治療を受ければ治る」と言っているように感じるのではないでしょうか。
エビデンスは、患者や一般の人にも大きな力を持っているのです。

そして、公的医療保険を使って受けられる治療には、すべてエビデンスがそろっています。というのも、厚生労働省は、エビデンスがない治療法を、公的医療保険が使える治療法に認定しないからです。
国もエビデンスを最重視しているのです。

ところが、国内では「代替医療が、がん治療に効く」という研究はほとんど行われていません。冒頭で紹介した「がんの補完代替医療ガイドブック第3版」には「がんの予防や治療、副作用の軽減などに関して、確実に有効性が証明された健康食品はありません」と断言しているのです。

これでは「代替医療はなんかいかがわしい」と感じる人がいても仕方がないでしょう。

エビデンスは簡単には増やせられない

「ある代替医療が、がんに効く」ということを証明するためのエビデンスを集めることは容易ではありません。
例えば、100人のがん患者にある代替医療を試してもらい、その結果9割以上の人のがんが小さくなったとします。しかしこれだけではエビデンスになりません。
なぜその代替医療ががんを小さくしたのか、というメカニズムを解明しなければならないのです。

例えば、がん治療のクリニックの医師が使っているコロイドヨードの原料はヨウ素で、ヨウ素は海水や海草やかん水などからつくります。海水や海草はもちろんのこと、かん水もラーメンの麺の原料にもなっているほど、一般の人になじみのある天然の物質です。
こうした「天然の物質が、がんに効く」ことを証明することがどれだけ難しいかは、想像できるでしょう。

もっとネット情報が充実すべき

なぜ、日本には代替医療が浸透しないのか。
「代替医療はいかがわしい」と思っている人が多いからでしょうか。
それはエビデンスが少ないからだけではないようです。

あやしい見出しと同類扱い?

例えば、検索エンジンのグーグルやヤフーなどで「がん」と「必ず治る」で検索してみてください。そこにはきっと、「それは本当のことですか」と聞きたくなるようなあやしげな見出しが並んでいるはずです。
そしてそこに「代替医療」の文字も散見されるのです。

ネットにはびこるあやしい代替医療に関する情報が、人々の不信感を増幅しています。

アメリカでは専門的なことが分かるサイトが豊富

では大量の代替医療情報が、人々を間違った方向に導いているのかというと、先ほど紹介した遠藤雄三先生は、違った見方をしています。
遠藤先生は、日本では代替医療に関するネット情報が少ないから代替医療が根付かない、と考えているのです。

遠藤先生によると、アメリカでは代替医療に関するネット情報が豊富で、かなり専門的なことまで分かるそうです。
情報が公開されているから、患者は自分に適した医療にたどりつけるわけです。

主体的に自分の医療を探す姿勢が求められる

遠藤先生は、アメリカの患者たちは主体的に「自分の医療」を選ぶ気質がある、と述べています。
一方で日本のがん患者に対しては、抗がん剤治療において「先生の言いなり」であると、治療を受けるときの姿勢に苦言を呈しています。

まとめ~「代替医療のみ」は危険

日本のがん治療でも、もっと積極的に代替医療を取り入れたほうがよい、と考える遠藤先生ですが、がんの三大療法である手術、抗がん剤、放射線を否定しているわけではありません。ここは勘違いしないようにしてください。
遠藤先生は、「切れ味鋭い」三大療法と、「効果が100%解明されていない」代替医療を、統合して使うべきだと考えています。
また「がんの補完代替医療ガイドブック第3版」でも、その冒頭に大きな文字で「代替医療のみは危険です」と警告しています。
代替医療を受けるときは、主治医にしっかり相談してください。

■資料:
「臨床研究開発補完代替医療学講座」(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科・医薬保健学域医学類)